クリスマスの手紙

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今年もまたクリスマスの手紙を友人知人に送った。

「Merry X ́mas & Happy New Year! 」とタイトルをつけて毎年その1年間の出来事や考えていたことなどを書いて送っている。僕は日本語で、妻は彼女の視線でドイツ語で書いている。

今年で何年目になるのだろうかとファイルにしまった過去の手紙を見てみると始めたのが1992年だった。従ってちょうど30年目になる。両親の喪中の年は書かなかったので実際の手紙の数はもうすこし少ないと思う。ドイツ語の方は息子の妊娠が判った年に始めたので20年になるのだろう。

手紙を出し始めた30年前と言えばその頃僕は旅をしていた時期だ。1989年に日本を離れ10年間ほど流浪の生活をしていた。後半は半分スイスに住んでいたみたいだし、日本には2年に一度ぐらいは立ち寄っていたのだが、基本的に旅が生活の場であった。

その頃は、コンピューターはまだ普及していなくてインターネットを使ってのコミュニケーションなどできなかったので、友人との連絡は電話か手紙だけだった。国際電話となると非常に高くつくので、電話は余程のことがないと使わなかった。そんなわけで手紙だけがコミュニケーションの手段だった。

それではどうやってその手紙を受け取っていたかというと、「郵便局留め」という便利なサービスがあって、届いた手紙を1ヶ月ほど郵便局で保管しておいてくれる。そしてパスポートなどの身分証明書を提示すると自分宛の手紙を受け取ることができるというシステムだ。

だから自分から手紙を書く時は「1ヶ月後にどこそこの国のどこそこの街にいるはずだからそこに手紙を出しておいて欲しい。」と書いておいた。その街に到着するとまずは宿を決めて次に行くのが郵便局だった。旅をしている頃は友人からの手紙を受け取るのが何よりの楽しみだったからだ。

とはいえ自分の方から書くのはもっぱら旅での出来事が主な内容であるから、どの手紙にも同じようなことを書き連ねることになる。これが結構な作業で面倒くさかった。そこで思いついたのが、「コピーしてしまえ」ということだった。ペンフレンド的な友人とは、こまめにやりとりをしていたのだが、住所交換しただけの相手などは、1年に1回のコピーの手紙で充分ではないかと考えた。

クリスマスにその年の1年間の出来事を書くというアイデアは、オーストラリア人の Davidからいただいた。

Davidのこと1

西オーストラリアのPerthの彼の家にやっかいになっているとき、どういうわけかクリスマスカードが話題になったことがある。「キリスト教徒でない自分がクリスマスカードを送るのは抵抗がある。でも友人からクリスマスカードをもらうのを無視するのも嫌だ。だから自分の1年間の出来事を書いて送っている。」と話してくれた。僕は宗教に対して誠実な彼の態度に感心しながら話を聞いていた。そして数年後に自分も彼の真似をして1年間の報告の手紙を書くようになった。

最初の頃は数枚の写真を貼り付けた紙に細かい字をびっしりと手書きで書いたものを白黒コピーをして送っていた。切手代もバカにならず、何よりバスキングの1番の稼ぎ時であるクリスマス前に大量の手紙を準備するのは大変だったのだが、まあ交友関係を維持するためには必要なことだと考えて出していた。1995年には、初めて妻とのツーショットの写真が出てくる。そして1999年には結婚式の写真、2001年には手書きではなく、コンピューターを使っての印刷の手紙になり、2002年には息子の誕生が記してある。そしてその後は息子の子育てを中心とした家族の変化が綴られている。

こうして見てみるとちょっとした自分史だなと思う。その年の出来事はもちろん、その時の自分達のテーマや課題、悩みなどの内面を書くように心がけているので、自分達の心の変遷も辿っていける。

今でも毎年この手紙を無事送るまでは重苦しい気分になる。さっさと始めればいいのだが、いつもぐずぐずしていて最後に慌ただしく仕上げることになる。手順としては、まず妻と大まかな内容を話し合い、妻がドイツ語で叩き台になるものを書き、それを読んで僕が日本語で下書きし、もう一度ドイツ語のと日本語を比較し話し合って、お互いに最終的なものを書くということになる。日本語、ドイツ語とも内容はそんなに変わらないのだが、細かい点は僕と妻で関心の中心が異なるため、印象は少し異なるはずだ。

何人かの友人はこの年末に届く手紙を楽しみにしてくれているようだ。

たぶんNHKの大河ドラマ的な面白さを感じてくれているのではと勝手に想像している。

バブルのころ社会を捨てて自国を飛び出した一人の男が世界各地を放浪し、数年後旅に疲れ果ててきてどうするのかと思っていた頃に異国の地である女性と出会う。国籍の違い、年齢差、大道芸人が仕事というとんでもない現状にも関わらず結婚し、今度こそちゃんとした職に就かないといけないだろうと思ったらそのままバスキングを続け、子供が産まれると専業主夫になり、その後家族で音楽を続けながら子育てに励み、やがてその子供が成長して離れていく……。今の時点がここ。

to be continued

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