老人ホーム慰安コンサート

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先日、老人ホームで慰安コンサートを開催した。

僕たちのところから歩いて10分ほどにある「Schlössli」という名前の老人ホームでのことだ。妻と二人で尺八、二胡、ピアノ、ギターという組み合わせで演奏した。老人ホームということで、もちろん高齢者が多く(50代の方もいるそうだが)オールディーズやスタンダードナンバーのおそらくみんな知っているであろう曲を選曲した。

持ち時間は1時間だったので、退屈しないように楽器を持ち替えるプログラムで、最後にはスイスドイツ語、フランス語(Bielはバイリンガルの都市なので)で歌うことにした。

コンサート自体は演奏ミスが少しあったのだが、全体としては比較的うまく行ったと思う。

ここでの演奏が決まったきっかけは、僕たちのお隣さんだ。

以前僕たちの上の階に住んでいた女性がこのホームに移ったというので妻が訪ねて行ったら、ちょうどその日にコンサートが開かれていた。僕たちも演奏できないかと問い合わせたところ承諾を得たというわけだ。

その女性というのは80歳を超えているのだが、非常に元気でどんな天候でも自転車に乗って出かけて行くという健康な方だった。数年前に御主人を亡くしたのだが、その後も一人暮らしを続けていた。

僕も顔を見かけると挨拶を交わしていたのだが、ある時を境にどうも反応がおかしいなと感じるようになった。その後、ある晩うちに「鍵を無くして自宅に入れない」と言ってきて、少し様子が変だったので家族に連絡するとすでにホームに移っているとのことだった。この少し前に頭がはっきりしなくなってきて、一人暮らしを続けるのは難しく、家族がホームに移る方がいいと判断したようだ。

スイスでは、家族と同居している高齢者はほとんど見かけない。

自立して暮らせるうちは自宅で生活するのが普通で、少しぐらい体が動かなくても支援のシステムがしっかりとしているので、頭さえ大丈夫ならホームに入ることなく暮らしている人がたくさんいる。

またスイスでは、寝たきり老人というのは聞いたことがない。終末医療に関しては事前に本人の希望を示しておくことができる。延命措置を取るのか、それとも痛み等を和らげるだけで、無理に生かしておくという治療は拒否するのか。その判断を家族に負わせることなく、準備しておくことが可能だ。

妻の父親は延命措置の治療を望まず、最後はモルヒネを打ってもらい痛みを和らげて最後を迎えた。これも事前に延命治療拒否の書類を揃えていたので、入院した病院も本人の意志を尊重したということだ。

自分自身が歳をとってくるとこの先どうなるのだろうかと色々と考えさせられる。

もちろん健康な体で頭の冴えたまま歳を重ねていきたいと願うのだが、未来は自分では決められない。今が大丈夫でも先のことはわからない。

ちょど良い機会でもあるので妻とも将来のことを少し話し合った。

さてこのホームの入居者は、僕たちのコンサートを楽しんでくれたようで、演奏後多くのポジティブなお言葉をいただいた。

そんなわけで機会があれば、またこういうところでの演奏もいいなと思っている。