武心館20周年式典

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先日、NEUCHATELという湖沿いのスイスの町の武道グループ「武心館」の20周年を祝って式典が開かれた。

僕は、そこでの尺八の演奏を依頼され、プログラムのオープニングとエンディングでの演奏を仰せつかった。普通は、二胡か三味線での演奏が多い中、今回は、尺八だけ、しかもバックミュージックは一切なしの演奏だ。

このNEUCHATELという町は、実は僕の住むBIELの隣町で、電車で20分ほどの距離しか離れていない。しかし、ここはフランス語圏に属し、ドイツ語は一切通じない。僕の尺八演奏の交渉は、幸い担当の人がドイツ語が出来る人だったので、メールで打ち合わせはドイツ語で進めることが出来た。

ただ、僕が不安だったのは、この会場だ。地図を送付してきてくれたし、インターネットで場所も確認したのだが、どうもよくわからない。駅から徒歩15分ぐらいの距離なので、何とかなるだろうと高をくくって、不安を打ち消した。
さて当日、「サムライの印象で」というリクエストに従い、黒の着物に袴と尺八、アンプを持って少し早めに電車に乗った。NEUCHATELは僕のレギュラーの演奏場所で、街中のことはよくわかっているのだが、このスポーツセンターは、街中とはまったく別の方向だ。見当をつけて歩いていったのだが、どうもわからない。結局10人ぐらいの人に住所を見せて道を尋ねた、そのうち2人が間違った方向を示してくれたので、とんでもない方向に行ってしまった。僕は、フランス語は、ほんの片言しかわからないので、ほとんど身振り手振りでのコミュニケーションだ。「もう、約束の時間に間に合わない。」とあきらめかけたときに、犬を2匹散歩しているおばあさんがいたので、たずねてみた。彼女は説明しても、僕にはわからないと判断したのだろう、わざわざ建物が見えるところまで僕を連れて行ってくれた。そんなわけで、何とか会場にたどり着いたのだが、汗びっしょりでへとへとの状態だった。

会場では、合気道、剣道のデモンストレーションの練習が行われていた。

とりあえず、着物に着替えて、会場に入ると、僕の演奏場所は、テープでマーキングしていて、電気のコンセントも近くにあるとのこと、但し、どうゆう風に始めるとか、誰かがキューを出してくれるとかの説明はまったく無しだ。取り合えず、新しく購入したヘッドホン形のワイヤレスマイクをセッティングして尺八のサウンドチェックを行った。

式典は、巨大な体育館で行われる。実は武心館の道場も同じ建物の中にあるということだが、道場は充分な広さがないので、今日はここが会場となった。
その会場には、テレビ、新聞の報道陣を含めて100人弱の人が集まっていた。

さて、予定時間になったので、僕が指定された演奏ポジションに着くと、武道家たちが僕の横に並んで、礼式をはじめた。プログラムに尺八の横に「REISIKI」と書いていたのは、このことだったのかと理解した。雰囲気にあうようにフレーズの早さなどを調整しながら、僕のオリジナル「山彦」を演奏した。

僕の尺八のサウンドは、新しいマイクロフォンが、実に音をクリアーに拾ってくれ、しかもワイアレスでどんなに動いても大丈夫なので、気持ちよく演奏できた。とても、ポータブルのアンプを使っているだけとは思えないサウンドだった。まあ、この体育館の音の響きがよいのと、観客が非常に静かに聴いてくれたことにもよるのだが。
合気道、剣道のデモンストレーション、あと3人組の太鼓グループの演奏をはさんでプログラムは順調に進んでいった。僕の出番は、最初に2曲演奏して、あとは最後に締めくくりの演奏。

日本からの大先生の演武が終わり、いよいよ最後の演奏だ。僕が演奏を始めると再びすべての武道家たちが、僕の横に整列して、礼式を始めた。僕は、その進行具合を確かめながら、それに合うように尺八の音色を選んでいく。まだ、タイトルをつけていない僕のオリジナル。この日のために用意したメロディーだ。武道家たちの礼式が終了し、彼らが定位置に戻ったのを確認してから、エンディングに入り、演奏を終了した。

実は、僕は演奏のことよりプログラムを通して心配していたことがあった。

それは、演奏後、果たして駅までいけるだろうか?ということだ。さっき明るいときでも、ここに来るのにあんなに苦労したのだ。真っ暗な今、どうやって駅まで行けばいいのだろうか?
さてどうしたものやらと考えながら、後片付けをしていると、「こんばんは」という日本語が聞こえた。なんだろうか?と顔を上げると、知り合いの日本人の娘さんが立っていた。話しを聞くと、隣にある大学に通っているのだが、武道の式典があると聞いて、見に来たとのこと。そして僕の姿を見かけたので、声をかけてくれたとのこと。こんな幸運は無いと、駅までどうやっていけばいいのかと尋ねると、一緒に行ってくれるとのこと。着物を急いで着替えて、早々駅に向かうことにした。

家にたどり着くと、疲れがどっと感じられた。この日は、いつもの演奏の疲れではなく、重い荷物をもって歩き回った疲れが。

それにしても、ヨーロッパでのアジアの格闘技の人気には驚かされる。僕はすでに3回ほど、このような武道の式典やパーティーで演奏しているし、それ以外でも問い合わせは、数回受けている、実際スイスの小さな町でも柔道や合気道の教室は、必ずあるといっていい。正志のクラスメートでも空手や柔道を習っている子供がいるし、妻も小さいとき少しだけ柔道の教室に通ったことがあるといっていた。日本の文化は、いろいろな方面で世界に浸透しているようだ。

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