尺八ループ

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尺八という楽器は、いたってシンプルな楽器である。竹の根元の部分を切り取り、節を抜いて、表面に穴を4つ、裏面に穴を1つ開け、歌口を斜めに切っただけの構造だ。笛の中でも、最も原始的な楽器の1つといえると思う。
しかし、そのサウンドは、非常に表現が豊かで、同じ指使いで3オクターブの音が出せる。自然界の音を模倣することも得意で、風の音、波の音、動物の鳴き声などを曲の中に取り入れることが出来る。そして、なんといっても、尺八の奏でる音楽は、瞑想的で、哲学的である。江戸時代に、禅宗の一派である譜化宗において、瞑想の道具と考えられていて、「吹禅」なる言葉も残っている。その当時は、尺八は楽器ではなく、瞑想の手段であり、一般の人が演奏することが禁じられていた。
尺八は、このように特殊な背景を持った楽器である。僕にとっては、この楽器が日本の民族楽器であるというのは、実に誇らしいことである。尺八に似た笛は、世界中にあるが、尺八の音はすぐに識別できる独特なものを持っている。日本の文化、歴史、思想に深く関係した楽器といえるだろう。

一方、ループマシンというのは、テクノロジーの塊だ。そもそもループマシンというのは、音楽のフレーズをループ、つまり輪のようにしてつなげて、繰り返し再生するものである。ヒップポップなどの音楽では、欠かせないものだ。この輪の上にどんどんと音を重ねていく、すると奇妙なリズムパターンが出来たり、一人多重奏なども可能だ。
以前は、こういう機械は、レコーディングスタジオの中でしか出来なかったことだが、今は、電池で稼動し、どこにでも持っていけるサイズのものが手ごろな値段で手に入れることが出来る。まあ、テクノロジーの進歩には、驚くばかりだ。
僕が、そもそもこのループマシンを知ったのは、知り合いのスイス人のギタリストからだ。「トシ、ループマシンを使ったことがあるかい?いろんなことが出来て面白いぜ。」と告げられた。僕は、もっぱらアコースティックの楽器をメインに使っているので、エフェクターの類には、うとい。そのあとさっそく、インターネットで検索し、ビデオを見てみた。
女性シンガーが、まずはリズムを作り、ギターの伴奏を入れ、コーラスを歌い、最後にメインの歌を歌うというパフォーマンスだったが、なかなか印象的で、かっこよかった。そのほかにもいくつかビデオを見て、これはおもしろそうだと思い、すぐに購入してしまった。
このとき僕は、コンサートの予定が入っており、とてもループマシンでの新しい試みに使える時間がなかった。そのあとも、CDのレコーディングやらで、時間をとられて、いつの間にかループマシンのことは忘れてしまった。
その後僕が、ループマシンのことを思い出すのは、妻が、僕の楽器購入癖に文句を言うとき、「それはそうと、あのループマシンとかいう機械は、何回使ったの?使いもしないならなんで買ったの?」という愚痴を聞くときだけだった。
息子の友達が遊びに来たときに、何回かループマシンをおもちゃにして遊んだ。マイクを立てて、話したり、叫んだり、笑ったりするのをループにすると、とんでもないリズムフレーズが出来て実におもしろい。子供たちには、大うけだった。
しかし、僕の音楽で使ったといえば、伴奏をループに入れて、それに合わせて練習しただけで、実際ほとんど使わなかったので、妻に嫌味を言われても言い返すことは出来なかった。
先日、僕たちは、引越しをしたのだが、そのごたごたも終わり、ようやく自分の時間が取れたので、長い間できなかったこと、「尺八とループマシンを組み合わせる。」という試みに取り掛かることにした。
一番簡単なのが、尺八の二重奏をループで再現する、というやつだ。フレーズさえ決めておけば、すぐに出来る。僕のオリジナル「山彦」は、本来、尺八と二胡のために書いたものだが、もちろん尺八二本でも演奏可能である。むしろ、この方が、違和感がないかもわからない。
ただそれだけならば、ループのおもしろさは、はっきりしない。そこで中間部に4本の尺八の音を重ねることにした。まずは、ペンタトニックのアルペジオを入れておいて、低音、高音とメロディーを重ねていく、最後に尺八特有の効果音的な音を重ね、そのあとループを止めて、独奏で締めくくる。まあ、例によって、ほとんど即興演奏なので、フレーズが合わないところもあれば、ループのペダルのタイミングが少しずれているのだが、この機会を逃すと、今度ビデオを撮ろうと思うのがいつになるかわからないので、これでOKということにした。
まだ、このパフォーマンスは、実際には使ったことがないのだが、今後、コンサートやパーティーでの演奏には、つかっていきたいと思う。
伝統的な民族楽器の尺八と最新テクノロジーのループマシンの組み合わせは、斬新なアイデアだと思うのだが、伝統的な音楽家からすれば、とんでもないことかもわからない。
しかし、なにごとも型にとらわれず、自分の心のままに音楽を奏でるのが僕のスタイルであるから、まさにこれは自分らしい試みだと自覚している。

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