A Day In The Busker’s Life (バスカーの一日)

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もしかしたら僕がバスキングにいく日はどんな感じでやっているか興味を持つ方もいるかもわからない。たぶん、そんなことはどうでもいいという人が大半だろうが,まあ今日のバスキングはうまく事が運び気分もいいので,今日の出来事をバスカーという視点から振り返ってみたい。
今日の演奏場所はスイスの首都BERNである。それでは,何故今日ここで演奏することに決めたのかというと,このところBERNは僕が一番よく演奏しているところで,僕にとってBERNで演奏するということは気分的にもっとも楽であるからだ。もちろん稼ぎの方はいつもいいとは限らないのだが,ある程度どういう展開になるか予想できるというのは精神的に楽である。昨日は二胡の集中講座をして,初心者に終日つきあって結構疲れたので,今日は少し楽をすることにした。というものBERNは僕の住んでいるBIELから近い。つまり朝も早く起きなくてすむということだ。
僕が今日BERNで演奏するのに決めたのは先週だ。でも。それはあくまでも予定であり,実際駅で気まぐれから他の都市に行く電車に飛び乗ることもある。今日はそんな気まぐれが起こることもなく予定通りBERNに到着。
次に演奏場所の選定。これはいくつか候補ポイントがあり,その日の人の出と天候,それにもちろん他のバスカーの状況を見て決めていく。この時点で一日のだいたいのバスキングの構想を立てる。もちろん前回どこで演奏したのかという要素も考慮する。僕が今日選んだのは国会議事堂の見える野菜マーケットの向かい側。ここは日があたり,冬は暖かくていいのだが,夏は暑くて演奏はできなくなる。今日の気温は午後は20度近くまで上がるというが,朝のうちはまだ涼しいのでここを選んだ。
1時間で場所を変える予定だったのだが,珍しくスイス在住の日本人女性が声をかけてくれて、20分近く立ち話をしていたので,結局お昼まで動かないことにした。ここまではすこぶる快調で,CDも数枚売れ,コインの入りもよかった。それに数人の人から「CDを買って聞いたけどよかったよ,」という言葉をいただく。こういうフィードバックは励みになる。もちろんBERNでは,固定客も多く,挨拶しながら演奏している。ただしパトカーやおまわりさんの巡回には,条件反射的にビクッとする。忍者のカズさんの言葉を思い出す。「警察はバスカーの天敵ですね。」
ドキュメンタリー映画を作っているというスイス人から,「マーケットとバスカー」というテーマで今度フィルムを撮るつもりなのだがと声をかけられる。もちろん協力すると答えるのだが,こういう話しはなかなか現実化しない。まあ,10件あって1件連絡があればいい方である。

BERNで演奏するときは,いつもお昼の休憩をイタリア人のジャグラー、アントニオと取ることにしている。彼はバスカー歴30年の強者である。日本のイベントにも数多く参加して来日しており,また趣味はギターでフィンガーピッキングのテクニシャンでもある。僕たち二人の間で12時半から1時までの間に僕がBERNで演奏しているときはアントニオのところに行くことになっている,まだ少し時間があったので,今度は場所を変えてアーケードの中で演奏することにした。ここでは音の反響がありサウンドコントロールはやりやすくなる。ここでも好調で,これでほぼ今日の最低予定額をクリアーした手応えがあり,精神的には楽になる。つまりいつ止めてもいいということだ。
アントニオとセルフサービスのレストランで昼食。その日のバスキングのこと,家族のことなどを話し合って約1時間の休憩。
午後からは,午前中と一転して不調に。今日はバスカーが少なく自分の思う場所を取れるのだが,コインの入りが悪くなる。自分のサウンドクオリティーは落ちていないので,要因は通行層が変化したからと分析する。これはどうすることもできない。ただし,絶対にもう一度波が上向きになると読んで,集中力は落とさずに演奏を続ける。実はこんなときがバスキングで一番つらい。誰も聞かないのに心のこもった音楽を演奏し続けるというのは忍耐がいる。僕が自分の精神的なコントロールをできるようになったのは最近のことだ。
一人で30分の休憩を取って,そのあとこの日最後の演奏セットに。もう一度アーケードの中で演奏することにした。さっきまでの不調が嘘のように反応がよくなる。本当は5時の電車で帰るつもりだったのだが,ホームスタジオの機材のことが頭をよぎり,30分延長した。
結局演奏時間は5時間ぐらいだろうか。土曜日としては僕の標準の長さである。
演奏を終了し,楽器を片付けて駅に向かう。この時点でいくら稼いだかわっているのか?と尋ねられると,「だいたいは」と答えるしかない。コインの重さである程度の金額はわかるのだが,もちろんコインの種類によって変わって来る。

電車がすいているときは電車の中でコインを数えることにしている。僕のコインを数えるスピードは半端じゃない。このとき金額は当然だが,コインの種類を見てこの日の傾向、分析をする。例えば、「今日は何故5フラン硬貨が多いのか?」「ユーロ硬貨が入っているのは,ツーリストが多かったからか?」「給料前というのは影響していたか?」などである。今後のバスキングの予測に役立てるためだ。
ずっと自分の稼ぎについては家族以外には誰にも教えないことにしている。金額はその日によって全然違うし,いくらぐらい稼げるという目安はないからだ。もちろんそのバスカーによっても全然違うだろうし,僕の稼ぎの金額が何かの基準になることはない。僕自身一応予算というか月刊での目標金額はあるのだが,天候をはじめ多くの要因に左右されるので,どうなるのかはやってみないとわからない。今日を見てもわかるが,同じぐらいの通行量があり,同じレベルで同じ曲を演奏しても面白いぐらいコインが入るときもあれば,まったく駄目なときもある。いつも思うことなのだが、バスカーの力量とは音楽的なレベルよりもむしろ,場所,時間の選定、自己管理能力,そして警察への対応が重要な要因だろう。
さて,今日は全体として好調だったのだが,その要因として考えられるのは,まず天気がよく,「春が来た」という気分から人々が開放的でおおらかになっていた。僕のターゲット層である年寄りと子供ずれが午前中は多かった。他のバスカーの数が少なかった。
午後から不調になったのは,気温が20度まで上がった。(18度までがいい)歩いているのが若者たちがほとんどだった。
今日はCDの売れ行きは比較的すくなかったのだが,コインが多く入ったので予算を大幅に超えた。
まあ,こんな感じでバスキングを行っている。他のバスカーはどうかわからないが,僕の場合行き当たりばったりで演奏することもあるのだが,その結果については自分なりに分析して,データーとしてもっている。たぶん僕が20年以上バスカーとして生き残れているのはこのことが大きいと思う。
今日はたまたまうまくいったのだが,まったくついていない日もある。禁止されている日に演奏して3曲目で警察にとめられ罰金をくらったり,せっかく早起きして行った街で他のバスカーが既に演奏していたり,失敗談には事欠かない。
僕はギャンブルに興味はないのだが,バスキングとギャンブルは共通点があるように感じる。どんなに分析して予想をたてたところで,最終的にはその日が終わってみなければどうなるかわからないところである。でも実はそこがまたバスキングの一番の醍醐味かもわからないのだが。