シュウのこと

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シュウさん愛用のギターは,エピフォン社のカジノだ。

たぶんこれだけでは,普通の人には何のことを意味するのかわからないと思う。でも,僕は,それを聞いたとたんに「おっ」と思った。これはなかなかのビートルズファンに違いないと。実はこのギターは,ビートルズが中期から後期によく使っていたギターだ。このギターをわざわざ購入するとは,かなりの思い入れがあるということだ。案の定シュウさんは,僕に負けず劣らずのビートルズファンである。

僕とシュウさんは,二人の時間の合うときに集まって,「ビートルズセッション」と名をうって,二人でビートルズの曲を演奏して楽しんでいる。1ヶ月に1度を目標にしているのだが,なかなか二人の時間が取れなくて,現実的には2ヶ月,あるいは3ヶ月に1度一緒に演奏するという感じだ。僕の息子の正志もこのセッションの準メンバーで,学校の授業がなくて家にいるときはたいてい数曲は一緒に演奏する。このプロジェクトの一応の基本的なコンセプトは,シュウさんがリードボーカルをとり,ギターを担当。僕は,曲によって楽器を持ち替えて演奏し,コーラスパートを担当する,というものだ。この僕たちのセッションは、もう3年近く続いているだろうか。

僕がシュウさんと出会ったのは,数年前の日本人女性が主催するチャリティーバザールのことだ。そのとき僕はそのバザールでの「出し物」として二胡の演奏を依頼されて,どうしようかなと迷っていたのだが,共演のタプラ奏者の女性が顔見知りだったということもあり,まあ,参加しようかということになった。そのときまで僕は,スイスに住みだしてからずいぶん時間が経っていたのだが,あまり在住の日本人の人たちとは交流がなかった。僕自身その必要性をあまり感じていなかったし,またバスカーという職業上その機会もなかったからだ。しかし、その頃僕は日本の友人たちとも,次第に疎遠になっていくので,やはりスイスで友人を見つけたいと思っていた。そのZugという町で開かれるバザールは,スタッフ、来訪者ともほとんどが日本人ということだったので,せっかく参加するのだから,誰か日本人男性に声をかけてみようかと考えていた。

その当日、自分の二胡演奏の出番も終わり,さてどうしたものかと思っていると,ウェブサイトの仕事をしているという男性が目にとまった。もちろん,どんな人かわからないのだが,とりあえず近寄っていき,僕のホームページ作成のことを質問した。そして最後に、「友達になってくれませんか?」と頼んでみた。まあ,大の大人がいう言葉としては,少し奇妙に聞こえたかもわからないが,彼は変な顔をするでもなく,「いいですよ。」と返事してくれた。

でも,本当のところ,たぶん彼からは連絡はないだろうと思っていた。なぜかというと、たいてい、こういった出会いは,その場限りのものに終わるのが普通だからだ。しかし,意外なことに彼から,しばらくしてメールが届いた。僕の三味線での演奏をある日本人の食事会で行わないかという内容だった。結局その話しが進み,僕はバーゼルで開かれた手打ちそばの食事会で演奏したのだが,その場にその日本人男性、シュウさんも参加していて,その帰り二人でギターの話しになったというわけである。

まさか,スイスで日本人男性のビートルズファンに会えるとは想像もしていなかった。シュウさんとは,ビートルズに関して、普通の人とでは出来ない会話が可能だ。例えばあの曲のあそこのギターは,誰が弾いているとか,この曲の歌詞のモチーフはどこから来たとか,この曲のアレンジは,たぶんここからヒントを得たとか,このトラックはここの部分が違うとか、はっきり言って、他の人にとってはどうでもいいようなことなのだが,ファンとしては,なかなか興味を覚えるものであり,それを話し合える人がいるというのは実に楽しいことだ。しかも,二人とも音楽をやっているので,一緒に演奏をすることが出来る。

シュウさんも僕と同じように奥さんはスイス人で,しかも一人息子がいる。シュウさんの息子さんは、うちの息子とは5歳ほど年が離れていて,この夏から幼稚園に行くのだが,二人には、家庭で家事,育児の一部を担当しているという共通項もある。そんなこともあり,週に1回か,2週間に1度ぐらいのわりあいで,二人で夜に長電話をしている。長いときは1時間半以上も話していることがある。たまに妻から,「よくそんなに長電話が出来るわね。」と嫌みをいわれることもあるが,話しだすと話しがつきない。最近の出来事、子供のこと,日本のこと,そしてもちろん音楽についてと,話題は次から次へとでてくる。僕が最近コンピューターを買い替えてからは,スカイプで顔を見ながら長話をしている。

もちろん家族ぐるみで会うこともよくある。シュウさん一家は,スイス北部のBaselに住んでいて,僕たちの住むBielからは電車で1時間強の距離だ。お互いのアパートで招き合ったり,夏は野外でバーベキューをしたりもした。

そしてこのところ、何回か僕のコラムにも登場してもらったDioさん一家を交えて,3家族で会うこともある。スイス人の奥さんは女性同士の会話、子供たちは子供たちで遊び,そして僕たちは日本人男性3人での会話を楽しむ。僕たちの話しは、ときには,海外で生活する難しさや,国際結婚の問題点(はっきり言って愚痴です。)などが話題になるときもあるが,たいていは,音楽、パフォーマンス,それにシュウさんの事業のことと,クリエーティブな話題が多い。

僕とシュウさんの「ビートルズセッション」は,実は、まだちゃんと人前で演奏したことがない。今までは,この曲をやってみよう,あの曲はどうだと,集まるたびに毎回違う曲を演奏していたのだが,最近曲数をしぼって,何曲か持ち曲を作っておいて,どこかで演奏の機会を狙おうか,ということになっている。ライブを行うのなら,僕の楽器の持ち替えはデメリットなので,アコースティックギター2本のアレンジにしようかと考えている。でもそういえば,僕たちのこのプロジェクトには,まだ名前さえない。持ち曲を決めることもいいが,それよりまずは何か格好のいい名前を探すところからはじめないといけないのかもしれない。

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