DIOのこと

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DIOさんと一緒に僕たちのパフォーマンスのアイデアを話し合っていると、彼の発想の豊かさに驚かされる。彼は僕自身では、決して思いもつかないようなことを考えだす。例えば、「三味線が日本から届いたんだけど、この三味線を左用にできませんか?」
「えっ。DIOさん、左ききでしたっけ?」

「いいえ。違いますけど、Toshiさんと二人で左右対称に三味線を弾くとカッコいいじゃありませんか。」とか、太鼓のバチを横笛にして吹けないかとか。とにかく普通ミュージシャンからは、そんな発想は絶対に生まれないだろう。だから、彼と話していると楽しくなる。そして、彼の僕にはない能力、ネットワークの構築と情報収集力にも驚かされる。スイスに来て短期間の間にこちらでの活動基盤を作ってしまった。
現在、彼と僕は、ここスイスで公私ともに親しい付き合いをしているのだが、Dioさんと知り合ったのは、まだ半年前のことだ。でも、彼とはもう数年も前からの友人のように感じられる。

僕が、彼と出会ったのは、昨年の8月のある土曜日だったと思う。その日僕は、バーゼルに演奏にいっていた。歩行者天国になっている、Freiestrasseにいってみると、大きな人垣ができていた。何のパフォーマンスをしているのかなと思い、そばに近づいてみると、アジア人の男性と小さな女の子が、パフォーマンスをしていた。実は、その前から、日本人のサーカスパフォーマーの親子がバーゼルで大道芸を行っているという噂は耳にしていたのだが、少し前のことなので。てっきりスイスからもういなくなったと思っていた。たぶん、これがその親子かな、と思ったのだが、そのときはパフォーマンスの途中だったので声はかけなかった。しばらくして、もう一度同じ場所に戻ってみると、どうやら休憩中らしく、地面に座り込んで何か話し合っていた。とりあえず、人違いだったら嫌なので、英語で話しかけることにした。

話しかけてみると、その男性は、人懐っこい笑顔で、自分も日本人だと答えてくれた。そして、僕のことを知っているような口ぶりだった。不思議に思い尋ねてみると、何回か僕が演奏している前を通りかかったそうだ。同じ日本人で、しかも大道芸という共通項があるので、最初から話しが弾んだ。そして、少し話すうちに、二人の人生が、なんかパラレルで進んできた部分が多いのに驚いた。日本で、普通に就職し、そのあと退職して自分の道を歩き始めた。
日本を飛び出して海外のいろんな国で活動してきた。現在スイス人の年齢の離れた年下の女性と結婚している。極め付きは、子供が一人いて、その子供に自分のやってきたことを伝えようとしている。
初めて話しかけた相手が、これだけ共通点があるちいうのは、珍しいことだろう。

もちろん、サーカスパフォーマンスと音楽というジャンルの違いはあるが、互いに親近感を覚えるのは当然だ。しかもその相手とスイスという母国を遠く離れた土地で、日本語で語れるというものうれしい限りだ。30分以上立ち話をしただろうか。再会を約束して、その日は別れた。その後、僕たちの家族ぐるみでの交流が始まった。二人で組めば、今までにない何か面白いことができるのではないか。自然とそういう流れになった。DIOんとのプロジェクトが始まって、僕の生活は、よりカラフルになった。締め太鼓と三味線のアンサンブル。獅子舞用のお囃子。吉田兄弟風の津軽三味線の曲。自分一人では、たぶんやることのない種類の音楽を僕は作り始めた。それに、DIOさんを通じて知り合う人たちもパントマイムの専門家、すし職人と今まで縁のなかった種類の人たちだ。

また、彼の話しを聞いているうちに、サーカスの世界のことにも興味がわいてきて、今までは妻と息子だけがいっていたサーカスにも2度ほど足を運んだ。そして、Dioさんの一人娘、ラムちゃんは今7歳で、本当に小さい頃からDIOさんと一緒にパフォーマンスをやってきたそうだ。サーカスのスターになるのが彼女の夢で、そのために日々練習、努力をしている。さすがに小さいときからやっているだけあってステージングは、度胸、テクニックともに大人顔負けだ。でも、パフォーマンス以外の時は、やっぱり7歳の女の子。僕の息子の正志とも仲良くなり、遊びにきてくれたときは、二人で遊んでいる。正志にとってラムちゃんは、他の同年代の友達とは異なり、いつも目標に向かい努力し、その成果がちゃんと現れているという存在。レベルは違うかもわからないが、小さいときから音楽をしている自分と重なり合う部分もあるのだろう。僕は、正志にモチベーションを与えるのにラムちゃんの存在をよく使わさせてもらっている。

いつも明るく、ポジティブ思考のDioさんだが、実は腰を痛めていて、激しいアクロバットパフォーマンスはできない状態だ。だから、僕は彼のアクロバットは実際に見たことがない。大きな舞台に立って活動してきた彼にとって、100パーセントの力が出せないのはさぞや悔しいことと思う。でも、アクロバットでなくても、二人で何かを作り出せるのではないかと話し合っている。
彼は、ショーで使っている小道具を始め、衣装も仮面もそのほとんどを、自分で作っている。DIO<んが獅子舞の頭を自分で作ると言い出したときには驚いたが、しばらくして、ちゃんと立派なカスタム獅子頭が完成した。 もちろん、僕とDIOさんでは、大道芸に対しての考え方、我が子への対応、その他スイスでの日本人社会との関わり方、など意見が異なる部分もあるのだが、そんな二人だからなおさら面白いのだと思う 特に大道芸のこととなると、実際にそれをやっているもの同士でないとわからない部分が多いので、語り合える貴重な存在である。今まで僕は、大道芸に対して音楽という面でしか考えてなかったのだが、DIOさんと出会ってからは、より多方面なバスカーに興味を覚えるようになった。 そうそう、その路上パフォーマンスについても、DIOさんにとっては基本的に「大道芸」であり、僕にとっては「バスキング」である。でも、もしかしたら、そこら辺のこだわりは、僕たち二人にしかわからないことなのかもしれないが。これまでは、話している割に実際の二人のプロジェクトは進んでいなかった。彼の方が忙しかったり、僕のスケジュールが詰まっていてなかなか取り組める時間が取れなかったからだ。でも、今からは、少し本腰を入れて、進めようということになっている。 でも、たとえこのプロジェクトが、うまくいこうが、失敗の連続であってもそのこと自体はあまり重要ではない。僕とDIOさんが楽しむことが一番の趣旨なのだから。もしも僕たち二人で100個のアイデアを考えたら、運が良ければそのうちの2個か3個は使えるかもわからない。まだ、世界のどこにもない、とんでもない何かを生み出せるかもわからないではないか。 僕にとって、DIOさんは、大切な友人であるとともに、一緒にそんな夢を追いかけるパートナーでもある。